まいど、酔いどれです。
ちょっと、こんな場面を想像してみてください。
深夜に体の具合が悪くなって救急車を呼んだとき、病院の受付で「緊急連絡先と身元保証人のお名前を教えてください」と言われる。そのとき、すぐに電話できる家族や親戚がいない。このシチュエーション、他人ごとやと思えない方も多いんじゃぁないでしょうか。
そんな不安に応えるように生まれたのが、「終身サポート契約」を扱う民間事業者です。身元保証から日常生活のサポート、亡くなったあとの手続きまで、家族の代わりになってくれるというサービスです。
ただ、このサービスには知らずに契約すると後悔するポイントがいくつもあります。「解約したら半額しか戻らなかった」「預けたお金が事業者の倒産で消えた」「財産を譲るよう求められた」。こんなトラブルが全国で次々と起きているんです。
この記事では、消費者庁・国民生活センター・東京都消費生活総合センターなどの公的情報をもとに、仕組みとトラブルの実態を整理します。後編では「契約前に確認すべきポイント」と「身元保証なしでも入院できる?」という疑問にもお答えします。
「終身サポート契約」とは何か

単身高齢者の増加が生んだ「家族代行」サービス
日本では一人暮らしの高齢者がどんどん増えています。入院するとき、介護施設に入るとき、亡くなったあとの手続き。こうした場面では、これまで「家族」が担ってきた役割が必要になります。
その「家族の代わり」を有償で引き受けるのが、「高齢者等終身サポート事業」です。以前は「身元保証等高齢者サポート事業」と呼ばれていましたが、2024年6月に政府がガイドラインを策定した際に名称が改められました。
身元保証・日常生活の支援・死後の事務手続きまで、家族がするようなことをまとめて引き受けてくれるのがこのサービスの特徴です。核家族化や単身世帯の増加で、こうしたサービスへのニーズが高まっているのは事実です。ただ、だからこそ利用する側がしっかり見極める目を持っておく必要があるんです。
全国に約450社・2年で2倍、でも規制は「努力義務」のみ
現在、全国に少なくとも約450社の事業者がいるとされており、2021年と比べると2倍以上に増えています。需要が高まっているということですが、同時に気になるのが「誰でも参入できる状態」が続いているという現実です。
2024年6月、消費者庁・厚生労働省・法務省・総務省など9省庁が連名で「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を策定しました。事業者が守るべき基準を定めたものですが、あくまで「努力義務」であり、違反しても罰則はありません。資格も認定制度もなく、どんな会社でも参入できます。だからこそ、利用者自身がしっかり確認することが大切になってくるんです。
📋 利用者向けチェックリストが公開されています
消費者庁はガイドラインとあわせて、利用者向けの「重要事項確認チェックリスト」(全30項目)も公開しています。事業者に「このリストに基づいた説明をしてください」と求めることができます。契約を急かされているときほど、一度立ち止まってリストを確認することをおすすめします。
出典:消費者庁「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン 別紙チェックリスト」2024年6月
サービスの内容と費用の仕組みを確認する

「どんなサービスなのか」「費用はいくらかかるのか」。契約前にここだけはきちんと理解しておいてほしいんです。知らずにサインしてしまうと、あとから「こんなはずじゃなかった」になりかねません。
3つのサービスの内容を表で見てみよう
このサービスは大きく3つに分かれています。消費者庁のガイドラインをもとにまとめると、次のようになります。
| サービス区分 | 主な内容 | 費用の発生タイミング |
|---|---|---|
| 身元保証 | 入退院・入退所の手続き支援、緊急連絡先の指定、緊急時の駆けつけ、死亡時の身柄引き取り | 入会時に一括で支払う |
| 生活支援 | 通院の送迎・付き添い、買い物の同行・代行、公共料金の支払い代行、預貯金の管理・重要書類の保管 | 利用するたびに都度発生 |
| 死後事務 | 死亡届の提出、年金・保険の停止手続き、ライフラインの解約、遺品整理、葬儀・納骨の手配 | 死亡後に預託金から精算 |
3つ全部セットで契約するケースが多いですが、必要なサービスだけを選べる事業者もあります。どのサービスを使うのかを事前に理解しておかないと、あとで「そんな説明、聞いてなかった」ということになりかねません。
費用は「入会金・預託金・都度費用」の3層構造になっている
費用の仕組みが複雑なのが、この契約のわかりにくいところです。「全部でいくらですか」と聞いたとき、事業者が答える金額が「すべての費用」とは限りません。
| 費用の種類 | 金額の目安 | 注意点 |
|---|---|---|
| 入会金・身元保証料 | 50万〜150万円(一括払い) | 解約しても戻らないことが多い |
| 死後事務の預託金 | 50万〜80万円(一括払い) | 余った分の返還ルールを必ず確認する |
| 生活支援の都度費用 | 平日2,500〜3,500円/時間 休日・深夜・緊急時は割増 |
使うたびに発生。年間管理費が別途かかる場合もある |
事業者によっては、入会金・身元保証料・預託金をひとまとめに説明することがあります。生活支援の都度費用については、説明がなければこちらから必ず確認してください。「年間管理費」や「基本見守り料」として別途かかる場合もあります。
⚠️ ここに注意してください
「全部込みで190万円、それ以外にはかかりません」と説明を受けて契約したのに、サービスを使うたびに別途請求が来た。これが最も多いトラブルの入り口です。
入会金・身元保証料だけが「込み」で、生活支援や緊急対応は別途課金という構造になっているケースが多くあります。「何が込みで、何が別途なのか」を必ず書面で確認してください。
実際に起きているトラブルの実態

ここからが、一番知っておいてほしいところです。実際にどんなトラブルが起きているか、公的機関への相談データをもとに見ていきましょう。主なトラブルは4種類あります。
| トラブルの種類 | 主な内容 |
|---|---|
| 追加費用の想定外請求 | 「込み」だと思っていたサービスが、使うたびに別途請求になる |
| 解約・返金の拒否や減額 | 「半額しか返せない」「5年後は返金ゼロ」と言われる |
| 預託金の流用・事業者の破綻 | 預けたお金が事業者の運転資金に使われ、倒産して戻らなくなる |
| 財産の贈与を条件にする勧誘 | 死因贈与・遺贈を契約の条件として求められる |
この4つのなかで、件数として最も多いのが「追加費用の想定外請求」です。国民生活センターへの相談でも、この類型が繰り返し報告されています。よくあるパターンは、「全部込みで190万円です」と説明を受けて契約したのに、通院の付き添いや緊急時の駆けつけなど生活支援サービスを使うたびに別途費用が請求されるというものです。入会金と身元保証料だけが「込み」で、日常生活支援は1時間ごとの時間制課金だったというのが実態です。書面の小さな欄に「生活支援:別途」と書いてあるのを見落としていたり、そもそも書面を受け取っていなかったりすることもあります。
残り3つについて、特に深刻なケースを詳しく見ていきます。
解約しようとしたら半額しか戻らなかった

実際の相談件数と金額を見ると、その深刻さがよくわかります。東京都消費生活総合センターには、2024年度だけで149件の相談が寄せられており、平均契約金額は225万円に達しています。
東京都消費者被害救済委員会が2026年1月に付託した事例では、身元保証契約と死後事務委任契約として合計約190万円を一括で支払ったケースが取り上げられています。契約直後から「遺言書を提出しなければ何もサポートできない」と急かされ、事業者を遺言執行者とする高額な報酬の追加支払いまで求められました。不信感を抱いて解約を申し出た段階では、サービスはほとんど提供されていませんでした。
それにもかかわらず事業者は、約款の「契約金の半額を没収する」という条項を適用し、半額しか返金しませんでした。
この精算条項は、消費者契約法第9条第1項第1号に違反する可能性があるとして、事業者に返還を促す和解斡旋がなされています。この条文はひと言でいうと、「サービスをほとんど使っていないのに高額の解約料を取るのはおかしい」という考え方を定めた法律です。解約料の算定根拠については、事業者が説明する努力義務を負っています。「なぜその金額になるのか」を事前に書面で確認しておくことが大切です。
📊 数字で見る相談の実態
・東京都消費生活総合センターへの相談件数:149件(2024年度)
・平均契約金額:225万円
・「5年経過後は返金ゼロ」条項について、消費者契約法違反の可能性を指摘(東京都消費者被害救済委員会 2026年1月付託)出典:東京都消費生活総合センター
預託金が流用され、事業者が破綻した

預託金のリスクを考えるうえで、絶対に知っておいてほしい事例があります。2016年に起きた公益財団法人「日本ライフ協会」の経営破綻です。
同協会は、単身高齢者などから「将来の葬儀費用」や「死後事務の実費」として、一人当たり数十万〜百万円以上の預託金を預かっていました。ところがその預託金が、職員の給与や事務所の開設費用など事業者の運転資金として組織的に流用されていたことが発覚しました。
結果として、約2,700人の契約者から集めた約4億8,000万円もの預託金が、返還もできずサービスも提供できない状態のまま破綻に至りました。
⛔ 預託金について知っておきたい重要な事実
預託金が事業者名義の一般口座で管理されている場合、たとえ帳簿上では「分けている」としても、事業者が倒産したとき預託金は一般債権者への返済に充てられてしまいます。
信託銀行などの信託口座で「分別管理」されていなければ、倒産時に預託金は戻ってきません。「信託口座で管理していますか」と必ず確認し、契約書でも確かめてください。
「財産を譲る」契約への誘導に注意
「あなたには身寄りがないから、最後まで面倒を見ます」。そう優しく言葉をかけながら、死因贈与や財産の寄附を契約の条件として求めてくる事業者が存在します。
日常的なサポートを通じて信頼関係を築いたあと、財産を狙う手口はさらに悪質なものも確認されています。ある事案では、身元保証事業者が高齢者の死亡翌月にキャッシュカードを無断で使ってATMから引き出しを行っていたことが発覚しました。生前の信頼関係を悪用し、通帳やカードを手元に保管したまま本人の死後に不正操作するという手口です。
また、「遺言書に事業者を受遺者として書くこと」を求めたり、「財産の一部を贈与することを契約の条件にする」ケースも各地で確認されています。名古屋高裁(令和4年3月22日判決)は、身元保証と死因贈与をセットにした契約を「暴利行為として公序良俗に違反し無効」と判断しています。
⚖️ 法的なポイント
消費者庁のガイドラインは、死因贈与・遺贈・寄附を契約の条件とすることを「避けることが重要」と明記しています。こうした条件を求めてくる事業者とは、絶対に契約しないことをおすすめします。
出典:消費者庁「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」2024年6月
前編のまとめと後編のご案内
📌 前編のポイントをまとめます
・終身サポート契約は「家族の代わり」を担う民間サービスだが、法的規制がなく誰でも参入できる
・費用は3層構造。「全部込み」かどうかを書面で必ず確認する
・件数が最多の「追加費用の想定外請求」から、預託金の流用・破綻まで、トラブルは多岐にわたる
・「財産を譲ること」「遺言書に書くこと」を求めてくる事業者とは、絶対に契約しない
📓 この記事を読んで「備えを整えたい」と思ったら
終身サポート契約を検討している方こそ、契約前に自分の意思を書面に残しておくことが大切です。「もし判断能力が低下したとき、どんな治療を望むか」「葬儀はどうしてほしいか」。こうした希望が書面になっていると、事業者への伝達がスムーズになり、トラブルの予防にもつながります。
【2026年8月対応・記録シート追加】エンディングノート&実務ガイドのパッケージ、家族が迷わない引き継ぎ設計(note)
怖い話が続きましたが、ちゃんと確認すれば怖くない契約にできます。後編では、その具体的な方法をまとめました。「契約前に確認したい重要な6つのポイント」と、「身元保証人がいなくても入院できる?」という疑問にもお答えします。相談できる公的な窓口も整理していますので、ぜひあわせて読んでみてください。
おおきに。