「突然の介護に備える!いまから知っておきたい公的介護サービス講座」第6回では、介護サービスを実際に利用するための手続きや流れについて解説します。いざという時にスムーズに対応できるよう、申請方法からサービス開始までのプロセスを知っておきましょう。
【前回の振り返り】
第5回では地域密着型サービスや小規模多機能型居宅介護など、地域で支える介護サービスについて学びました。
【この回で学べること】
- 要介護認定の申請方法と必要書類
- 認定調査の内容と審査のポイント
- ケアプラン作成の進め方
- ケアマネジャーの選び方とサービス事業者との契約

介護サービス利用の申請から開始までの流れ
1. 要介護認定の申請
介護保険サービスを利用するためには、まず要介護認定を受ける必要があります。これは介護の必要度を判定するための手続きで、市区町村の窓口で申請します。
申請窓口と相談先
要介護認定の申請先は、お住まいの市区町村の介護保険課または地域包括支援センターです。地域包括支援センターは、高齢者の総合相談窓口として各地域に設置されており、介護に関する様々な相談に対応してくれます。

市区町村の窓口での申請の様子
申請に必要な書類と準備するもの
要介護認定の申請には以下のものが必要です:
- 介護保険被保険者証(65歳以上の方)
- 本人確認書類(運転免許証、健康保険証など)
- 医療保険の被保険者証(40〜64歳の特定疾病に該当する方)
- マイナンバーカードまたは通知カード(自治体によって異なる)
申請のタイミングと緊急時の対応
申請から認定結果が出るまでには原則30日以内とされていますが、実際には1ヶ月以上かかることもあります。そのため、介護が必要になると予測される場合は、できるだけ早めに申請することをおすすめします。
急に入院して退院後すぐにサービスが必要な場合などは、「暫定ケアプラン」を作成してサービスを開始し、後から認定結果が出た時点で調整する方法もあります。この場合、要支援・要介護と認定されれば、申請日までさかのぼって介護保険が適用されます。
💡 ポイント
家族が代行申請する場合は、本人の委任状が必要となることがあります。また、入院中の方の場合は、医療ソーシャルワーカー(MSW)に相談すると、退院後の介護サービス利用に向けた準備をスムーズに進められることがあります。
2. 認定調査と審査のプロセス
申請が受理されると、認定調査員による訪問調査と主治医意見書の作成が行われます。これらの結果をもとに、介護認定審査会で要介護度が判定されます。

認定調査と審査会のイメージ
認定調査員による訪問調査の内容
市区町村から派遣された認定調査員が自宅や入院先を訪問し、約74項目にわたる質問に基づいて心身の状態を調査します。主な調査内容は以下の通りです:
- 身体機能(起き上がり、歩行、排せつなど)
- 生活機能(食事、入浴、着替えなど)
- 認知機能(記憶、理解、判断など)
- 問題行動(徘徊、昼夜逆転など)
- 社会生活への適応(金銭管理、服薬管理など)
調査は通常1時間程度で行われます。実際の状況をできるだけ正確に伝えることが大切です。「頑張ればできる」ではなく、「普段の状態」を伝えましょう。
主治医意見書の役割と準備
市区町村から主治医に依頼され、本人の心身の状況や疾病の状況などについての意見書が作成されます。主治医意見書は審査の重要な資料となります。

主治医意見書のイメージ
主治医意見書のポイント:
- 疾病や傷病の状況
- 特別な医療の必要性
- 日常生活の自立度
- 認知症の状況
- 生活環境や介護者の状況
⚠️ 注意点
普段から通院している主治医に依頼するのが一般的ですが、最近の受診がない場合は新たに受診して相談しましょう。また、認知症の症状がある場合は、神経内科や精神科、もの忘れ外来などの専門医の意見書が望ましい場合もあります。
介護認定審査会による判定の仕組み
認定調査の結果と主治医意見書をもとに、以下の2段階で審査が行われます:
-
一次判定(コンピュータ判定):
認定調査の74項目の結果をコンピュータに入力し、全国一律の判定ソフトにより「要介護認定等基準時間」が算出されます。 -
二次判定(介護認定審査会による判定):
医療、福祉、保健の専門家で構成される介護認定審査会が、一次判定結果と主治医意見書、特記事項を総合的に検討し、最終的な要介護度を判定します。

介護認定審査会のイメージ
要支援・要介護度の違いとサービス内容への影響
判定結果は「非該当」「要支援1・2」「要介護1~5」の8段階に分かれます。この判定結果によって、利用できるサービスの種類や限度額が異なります。
要支援1・2:日常生活にやや支援が必要な状態。介護予防サービスが中心となります。
要介護1~5:日常生活に介護が必要な状態。数字が大きくなるほど介護の必要度が高くなります。
💡 ポイント
認定結果に不服がある場合は、結果通知から3か月以内に「介護保険審査会」に審査請求することができます。また、状態が変化した場合は「区分変更申請」を行うことで、認定期間中でも要介護度の見直しが可能です。
3. ケアプラン作成とケアマネジャーの役割
要介護認定の結果が出たら、ケアマネジャー(介護支援専門員)を選んでケアプランの作成を依頼します。ケアマネジャーは介護サービスを利用する上で重要なパートナーとなります。

ケアマネジャーの役割イメージ
ケアマネジャーの選び方と相性の重要性
ケアマネジャーは居宅介護支援事業所に所属しており、地域包括支援センターなどで紹介を受けることができます。良いケアマネジャーを選ぶポイントは以下の通りです:
- 相談しやすく、話をよく聞いてくれる
- 専門知識が豊富で、適切な提案ができる
- 地域の介護サービスに詳しい
- 医療と介護の連携ができる
- 前身資格(看護師、社会福祉士など)を活かした専門性がある
- 複数のサービス事業者を公平に紹介してくれる
最初に担当になったケアマネジャーが合わないと感じたら、遠慮なく変更を検討しましょう。長期的な関係になるため、相性は重要です。
💡 ポイント
「特定事業所加算」を取得している事業所は、一定の基準を満たした質の高いサービスを提供している事業所として認められています。また、要支援1・2の方は地域包括支援センターが窓口となり、「介護予防ケアプラン」の作成を担当します。
ケアプラン作成の手順と本人・家族の希望の伝え方
ケアプランは以下のような流れで作成されます:
- アセスメント(状況把握):本人の心身の状態や生活環境、希望などを詳しく聞き取ります。
- 課題分析:現状の問題点と改善すべき課題を整理します。
- ケアプラン原案の作成:目標を設定し、必要なサービスを組み合わせてプランを作成します。
- サービス担当者会議:関係するサービス事業者が集まり、ケアプランの内容を共有・調整します。
- 本人・家族への説明と同意:最終的なケアプランを説明し、同意を得ます。
- サービス開始:各事業者と契約し、サービス提供が始まります。

ケアプラン作成のイメージ
本人や家族の希望は積極的に伝えることが大切です。「どのような生活を送りたいか」「どんな支援が必要か」など具体的に伝えましょう。ただし、希望がすべて叶うわけではなく、介護保険制度の範囲内でのサービス提供となることを理解しておく必要があります。
サービス担当者会議の目的と参加のポイント
サービス担当者会議は、ケアプランに関わるすべてのサービス提供事業者が集まり、情報共有と連携を図る場です。本人や家族も参加し、より良いサービス提供のための意見交換が行われます。
- 各サービス事業者の具体的な支援内容を確認する
- 日程や時間帯などの調整を行う
- サービス利用上の注意点や不安な点を共有する
- サービス間の連携方法を確認する
📣 アドバイス
サービス担当者会議では遠慮せず質問や要望を伝えましょう。また、日頃の様子や困りごとなど、具体的なエピソードを共有することで、より適切なサービス提供につながります。
定期的な見直しとモニタリングの重要性
ケアマネジャーは毎月訪問し、サービスが適切に提供されているか確認するモニタリングを行います。要介護度や状態の変化、新たなニーズがあれば、ケアプランの見直しを行います。
モニタリングでは以下のような点を確認します:
- サービスの利用状況と効果
- 本人の状態変化
- 新たな課題や要望
- サービス内容の適切性
- 家族の負担状況
状態の変化があれば遠慮なくケアマネジャーに相談し、必要に応じてケアプランの見直しや区分変更申請を検討しましょう。
4. サービス事業者の選択と契約
ケアプランが作成されたら、各サービス事業者と個別に契約を結びます。事業者選びは慎重に行い、実際のサービス内容や相性を確認することが大切です。

介護サービス事業者の選択イメージ
サービス事業者の比較検討の方法
サービス事業者を選ぶ際のポイントは以下の通りです:
- アクセスの良さ(通所サービスの場合)
- 営業日や営業時間
- スタッフの資格や経験
- サービスの質や評判
- 施設や設備の状況
- 利用料金(介護保険外のサービスを含む)
- キャンセルポリシー
情報収集の方法としては、以下のようなものがあります:
- ケアマネジャーからの情報提供
- 厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」の活用
- 地域包括支援センターでの相談
- 口コミや評判の確認
契約前の見学や体験利用の活用法
多くのサービス事業者では、契約前の見学や体験利用を受け付けています。これらを積極的に活用しましょう。
- スタッフの対応や雰囲気
- 施設の清潔さや安全対策
- 利用者同士の交流の様子
- 食事の内容(デイサービスなど)
- プログラムの内容と柔軟性
- 送迎の対応(時間、範囲など)
体験利用後は、本人の感想を大切にし、無理強いせずに本人が納得した事業者を選ぶようにしましょう。
契約時の重要事項説明と確認ポイント
サービス事業者と契約する際は、「重要事項説明書」の内容をしっかり確認します。主な確認ポイントは以下の通りです:
- 提供されるサービスの具体的内容
- 料金体系(保険給付分と自己負担分、保険外サービス)
- キャンセル料の発生条件
- 緊急時の対応方法
- 苦情処理の体制
- 個人情報の取り扱い
- 契約の解除条件
⚠️ 注意点
重要事項説明は形式的に進められがちですが、わからない点は必ず質問し、納得した上で契約しましょう。また、サービス提供責任者や管理者など、困ったときの相談先も確認しておくと安心です。
サービス開始後の調整や変更の方法
サービス開始後、実際に利用してみると調整や変更が必要になることがあります。その際の対応方法は以下の通りです:
- ケアマネジャーへの相談:まずはケアマネジャーに状況を伝え、相談しましょう。
- サービス内容の微調整:時間帯の変更や支援内容の調整など、小さな変更はサービス提供事業者と直接相談できることもあります。
- サービス担当者会議の開催:大きな変更が必要な場合は、再度サービス担当者会議を開いて調整します。
- 事業者の変更:相性が合わない場合は、別の事業者への変更も検討します。
📣 アドバイス
サービス利用の初期段階では、細かな調整が必要になることが多いため、気になることはすぐにケアマネジャーや事業者に伝えましょう。また、状態の変化や新たなニーズが生じた場合も、早めの相談が大切です。
【まとめ】
今回のポイント
- 要介護認定の申請は市区町村の窓口で行い、認定結果が出るまで約1ヶ月かかります
- 認定調査では日常生活の状況を正確に伝えることが大切です
- ケアマネジャーは介護サービス利用の要となる存在で、相性を重視して選びましょう
- サービス事業者との契約前には必ず見学や体験利用をして、実際の様子を確認しましょう
【次回予告】
最終回となる第7回は「知っておきたい役立つ情報 – 突然の介護に備えるチェックリスト」について解説します。緊急時の対応や家族での情報共有のポイント、介護と仕事の両立支援制度などを紹介します。
■シリーズ全7回の内容
- 第1回:介護の基礎知識 – 突然の介護に備えるために
- 第2回:自宅で受けられる介護サービス – 在宅介護の選択肢
- 第3回:住まいの支援とお金 – 介護環境と費用面の対策
- 第4回:施設介護の選択肢 – 自宅介護が難しくなったら
- 第5回:地域で支える介護 – 住み慣れた場所で安心して暮らすために
- 第6回:介護サービスの利用方法 – 申請から利用までの流れ(本ブログ)
- 第7回:知っておきたい役立つ情報 – 突然の介護に備えるチェックリスト