「亡くなった配偶者や亡くなった母のスマホに残っているLINEのやり取り、いつまでも見返していたい…」そうお思いの方も多いのではないでしょうか。しかし、何も対策をしなければ、ある日突然その大切な思い出が消えてしまうかもしれません。
2024年11月、国民生活センターも「デジタル終活」の重要性について注意喚起を行いました。この記事では、高齢者ご本人、そして高齢の親御さんを持つ方に向けて、今すぐ知っておくべきLINEアカウントの死後対応と、大切な思い出を守るための具体的な方法をわかりやすく解説します。
【重要】LINEアカウントが突然消える仕組みとは?
故人のスマートフォンをそのまま大切に保管していても、ある日突然LINEアカウントが消えてしまうことがあります。その原因は、多くの方が見落としがちな「電話番号の再利用」という仕組みにあります。

アカウントが消えるまでの流れ
- 携帯電話契約を解約する — ご遺族が故人の携帯電話契約を解約すると、その電話番号は携帯電話会社に返還されます。
- 電話番号が別の人に割り当てられる — 返還された電話番号は、一定の保管期間(通常6ヶ月〜数年、キャリアにより異なる)を経て、新しい契約者に再び割り当てられます。
- 新しい利用者がLINEを始めると、アカウントが上書きされる — LINEは「1つの電話番号につき1つのアカウント」というルールで運営されています。そのため、新しい契約者がその電話番号でLINEの新規登録を行うと、故人のアカウントは自動的に削除(上書き)されてしまいます。
⚠️ 重要なポイント: 携帯電話を解約しても、故人のスマートフォン本体に残っているLINEアプリは一見すると使えるように見えます。しかし、電話番号が再利用されると、トーク履歴、友だちリスト、写真など、すべてのデータが完全に消滅します。
なぜ家族はLINEアカウントを引き継げないのか
「亡くなった家族のLINEアカウントを、そのまま引き継いで管理できないか?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。残念ながら、LINEアカウントは法的・規約的な理由から相続することができません。
「一身専属」という原則
LINEの利用規約(第4条)には、アカウントは利用者に「一身専属的」に帰属すると明記されています。一身専属とは、「その人個人だけが持つことを許された権利」という意味の法律上の考え方です。例えば、運転免許証や医師免許のように、本人だけが行使できる権利であり、家族であっても譲渡・貸与・相続ができないものとされています。
LINE利用規約 第4条4項(抜粋):
「本サービスのアカウントは、お客様に一身専属的に帰属します。お客様の本サービスにおけるすべての利用権は、第三者に譲渡、貸与その他の処分または相続させることはできません。」
出典:LINE利用規約
プライバシー保護の観点
LINEが相続を認めないのは、故人だけでなく、故人とやり取りをしていた友人・知人など、相手方のプライバシーを守るためでもあります。もし相続人が過去のすべての会話を閲覧できてしまうと、故人との間で交わされた第三者のプライベートな内容が意図せず知られてしまうことになりかねません。この「徹底的なプライバシー保護」がLINEの基本スタンスなのです。
【今すぐ実践】大切な思い出を守る保存方法
📱 最重要ポイント: これからご紹介する保存作業は、必ず故人の携帯電話契約を解約する「前」に行ってください。解約後は、電話番号再利用のリスクが発生し、思い出が消えてしまう可能性があります。
トーク履歴(メッセージ)をテキストで保存する
故人との会話をテキストデータとして保存する方法です。
この操作は、iPhone・Android共に基本的に同じ手順で行えます。
- 保存したい故人とのトーク画面を開きます
- 画面右上のメニューアイコン(≡)をタップし、「設定(歯車アイコン)」を開きます
- 一覧から「トーク履歴を送信」を選択します
※Androidの場合は「トーク履歴をエクスポート」などの名称になっていることがありますが、機能は同じです。 - メールアプリやメモアプリなど、ご自身のスマートフォンで受け取れる場所を選んで送信すれば完了です

【注意】 この方法で保存されるのはテキスト(文字)のみです。スタンプや画像、動画は保存されないため、別途保存作業が必要です。
写真や動画を個別に保存する(Keep終了に注意)
トークルーム内の写真や動画は、一つずつ手動で保存するのが最も確実です。
以前は「LINE Keep」という保存機能がありましたが、LINE Keep機能は2024年8月28日をもってサービスを終了しました。
現在は「Keepメモ」という機能が残っていますが、これはあくまで「自分専用のトークルーム」に過ぎません。アカウントが削除されるとKeepメモの内容もすべて消えてしまうため、必ず「端末本体(写真アプリ)」や「パソコン」に保存してください。
LINEアルバムは永続的な保存場所ではない
⚠️ 要注意: 多くの方が思い出の写真を「アルバム」機能に保存していますが、これは永続的な保存場所にはなりません。故人のアカウントが削除されると、トークルーム自体が消滅するため、そこに紐づくアルバムもすべて見られなくなります。
例えるなら、LINEアルバムはそのトークルームという「部屋」の中にある本棚のようなものです。アカウント削除によって「部屋」そのものがなくなれば、「本棚」も一緒に消えてしまいます。大切な写真は必ずスマートフォン本体やGoogleフォトなどの別サービスにも保存しておきましょう。
最も手軽な方法:スクリーンショット
特別な機能を使わなくても、スマートフォンのスクリーンショット機能で画面をそのまま撮影するのが、会話の流れや写真、スタンプのやり取りをビジュアル的に残すための最もシンプルで確実な方法です。
保存方法のまとめ
| データ種別 | おすすめの保存方法 | 注意点 |
|---|---|---|
| トーク履歴(文字) | 「トーク履歴を送信」機能、スクリーンショット | スタンプは[スタンプ]等の文字で記録されるためスクショ推奨 |
| 写真・動画 | 端末本体(カメラロール)への保存、PCへの保存 | LINE Keepは終了済。Keepメモへの保存はNG(一緒に消える) |
| アルバム | 写真を個別に端末へ保存 | アカウント削除と共に消滅するリスク大 |
【2025年4月終了済】LINE Pay残高はどうなる?
2025年12月現在、日本国内のLINE Payサービスはすでに終了し、PayPayへ統合されています(2025年4月30日サービス終了)。
PayPayへの移行と払戻しについて
もし故人のスマートフォンにLINE Payのアプリや利用形跡が残っている場合、以下の状況が考えられます。
- PayPayへの移行済み: 故人が生前に手続きを行い、残高がPayPayに引き継がれているケース。この場合、遺産としての確認対象は「PayPay残高」となります。
- 払戻し手続き期間: サービス終了後の払戻し申出期間内であれば、所定の手続きで返金を受けられる可能性があります。
⚠️ 注意: 資金決済法に基づく払戻しには「申出期間(通常は終了から数ヶ月間)」が定められています。2025年12月時点では、この期間が終了している可能性もあります。念のため、LINEアプリ内のウォレットタブや、公式サイトの最新情報を確認してください。
故人のアカウント、削除する?放置する?
思い出の保存が完了したら、次は故人のLINEアカウントをどう扱うかを検討しましょう。ご遺族には「アカウントを削除する」と「何もしない(放置する)」という2つの選択肢があります。
選択肢の比較
| 選択肢 | メリット | デメリット・注意点 |
|---|---|---|
| 削除する | ・故人のプライバシーが守られる ・アカウント乗っ取りリスクがなくなる ・友人への精神的な区切りになる |
・LINE社への手続きが必要 ・全データが完全消去され復元不可 |
| 放置する | ・手続きが不要 ・友だちリストに故人のアイコンが残る |
・電話番号再利用でいずれ消えるリスク ・乗っ取りのセキュリティリスク ・誕生日通知等で友人に負担をかける可能性 |
アカウント削除の手続き方法
ご遺族がアカウント削除を希望される場合は、LINEセーフティセンターの「故人のアカウントを閉鎖する」ページから問い合わせフォームを通じて申請できます。LINEも公式に「利用者が亡くなった場合の手続きは必須ではありません」としており、急いで決断する必要はありません。
📎 参考リンク:LINE セーフティセンター
Apple・Googleの「デジタル遺産」機能を活用しよう

LINEには死後対応の公式機能がありませんが、スマートフォンのOS提供元であるAppleとGoogleは、それぞれ優れたデジタル遺産管理機能を提供しています。これらを設定しておくことで、LINEに限らず、スマートフォン内のすべてのデータをご家族に託すことができます。
Apple「故人アカウント管理連絡先」
iOS 15.2以降のiPhoneで利用可能な機能です。自分の死後、信頼できる人(最大5名)を指定しておくことで、その人がAppleアカウント内のデータにアクセスできるようになります。
- アクセスできるデータ: 写真、メッセージ、メモ、ファイル、ダウンロードしたアプリ、デバイスのバックアップなど
- アクセス期間: 承認から3年間(その後アカウントは完全削除)
- 申請に必要なもの: アクセスキー+死亡証明書(日本では戸籍謄本)
設定方法(iPhone)
- 「設定」アプリを開き、自分の名前(Apple ID)をタップ
- 「サインインとセキュリティ」をタップ
- 「故人アカウント管理連絡先」をタップ
- 「故人アカウント管理連絡先を追加」から登録
📎 参考リンク:Apple サポート – 故人アカウント管理連絡先を追加する方法
Google「アカウント無効化管理ツール」
Androidユーザーの方、あるいはGmailやGoogleフォトをメインで使っている方は、Googleの公式機能「アカウント無効化管理ツール」を設定しましょう。
これは、Googleアカウントが長期間使用されなかった(=亡くなった可能性が高い)場合に、指定した家族にデータを渡したり、アカウントを削除したりできる機能です。Android端末を持っていなくても、Webブラウザから今すぐ設定できます。
📱 設定できること
- 待機期間: アカウント停止とみなす期間(3ヶ月〜18ヶ月)
- 通知先: データへのアクセス権を渡す相手(最大10名)
- 共有データ: 写真、メール、ドライブなど渡すデータを選択可能
- 自動削除: データの引継ぎ後にアカウントを削除するかどうか
設定手順(iPhone・PC・Android共通)
この設定はアプリではなく、ブラウザ上の「Googleアカウント管理画面」から行います。
- Webブラウザで Googleアカウント管理ページ (myaccount.google.com) にアクセス
- 「データとプライバシー」タブを選択
- 画面を下にスクロールし、「その他のオプション」を探す
- 「アカウント無効化管理ツール」をタップ
- 「開始する」ボタンから画面の指示に従って設定
※Googleへのログインが必要です
📎 公式ヘルプ:Google アカウント無効化管理ツールについて
まとめ:今日からできるデジタル終活

2024年11月、国民生活センターは「デジタル終活」の重要性について注意喚起を行いました。
📋 この記事の重要ポイント3つ
- LINEアカウントは「一身専属」で相続できない — 大切な思い出は、アカウントにアクセスできるうちに手動で保存する必要があります。
- LINE Keepは終了している — 「Keepメモ」は保存場所になりません。写真は必ず端末本体やPCに保存しましょう。
- LINE Payは2025年4月に終了する — 残高は早めにPayPayへ移行するか、使い切っておくことが、遺族への一番の親切です。
国民生活センター推奨:デジタル終活の始め方
国民生活センターは、以下のようなシンプルな方法を推奨しています。
- スマホのパスワードを紙に書いて保管する — 修正テープで隠して安全な場所に保管し、家族にその場所だけを伝えておく
- 家族だけがわかる「合言葉」をヒントにする — 「パートナーの誕生日」など、家族だけが解読できるヒントを書き残す
- エンディングノートを活用する — 利用中のサービス一覧と死後の希望を記録しておく
- Apple・Googleの公式機能を設定する — 故人アカウント管理連絡先やアカウント無効化管理ツールを活用する
デジタル終活は、単なるデータ整理ではありません。それは、あなたの生きた証をどう締めくくるかを自分で決め、残される家族への負担を少しでも減らしたいという、未来の家族への「思いやり」そのものなのです。ご家族を亡くされた悲しみの中で、こうした手続きに向き合うのは大変なことです。だからこそ、私たち自身が元気なうちから少しずつ準備を進めておくことが、遺された家族の心の負担を大きく軽減することにつながります。
この記事が、故人様との大切な思い出を守り、ご家族の心の負担を少しでも軽くするための一助となれば幸いです。