2026年(令和8年)6月から、病院や診療所でかかる医療費の計算ルールが変わります。
「また値上げ?」と不安に思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。
この連載では、何がどう変わるのかを、4回に分けてわかりやすくお伝えしていきます。第1回の今回は、改定の全体像をご説明しますね。
2026年6月、医療費の計算ルールが変わります

診療報酬改定とは?2年に1度の「医療費の見直し」
病院や診療所で診察を受けると、窓口でお会計をしますよね。
この金額は、どのように決まっているのでしょうか。
実は、診察や検査、注射、薬など、医療行為のひとつひとつに「点数」が決められています。この点数に10円をかけた金額が医療費になります。
たとえば、初めて受診したときの診察料(初診料)は288点です。これに10円をかけると2,880円。3割負担の方なら、窓口で支払うのは864円となります。
この点数を全国一律で見直すのが「診療報酬改定」です。
改定は原則として2年に1度行われます。国の審議会で議論され、最終的に厚生労働大臣が決定します。
前回の改定は2024年(令和6年)6月でした。そして次の改定が、2026年(令和8年)6月に行われるのです。
今回の改定、ひとことで言うと「値上げ」です
今回の改定率は「プラス3.09%」と発表されました。
この数字は、医療機関が受け取る報酬の総額が、全体として3.09%増えることを意味します。
「3%くらいなら大したことない」と思われるかもしれません。
しかし、前回(2024年)の改定率はプラス0.88%でした。今回はその約3.5倍の引き上げ幅です。過去の改定と比べても、かなり大きな値上げといえます。実際、3%を超える引き上げは1996年度以来、約30年ぶりの水準なのです。
もちろん、すべての医療費が3.09%上がるわけではありません。項目によって上がり方は異なります。中には据え置きのものや、下がるものもあります。
ただ、全体の傾向としては「値上げ」の方向であることは間違いありません。
なぜ値上げ?3つの理由

「なぜ今回、これほど大きな値上げになったのか」
その背景には、大きく3つの理由があります。
理由1:物価の上昇
ここ数年、あらゆるものの値段が上がっていますよね。
病院も例外ではありません。電気代、ガス代、医療材料費、給食の食材費など、運営に必要なコストが軒並み上昇しています。
今回の改定では、こうした物価上昇分として「プラス0.76%」が計上されました。
さらに、大学病院などの高度な医療を担う病院には、特別に「プラス0.14%」が上乗せされます。高額な医療機器の維持費や、最先端の治療にかかるコストを考慮したものです。
理由2:医療従事者の賃上げ
看護師さん、薬剤師さん、医療事務の方々。病院で働く人たちのお給料を上げる必要があります。
他の業界では賃上げが進んでいますが、医療業界は診療報酬で収入が決まるため、国が引き上げを決めないと賃上げができないのです。
今回の改定では、賃上げ対応分として「プラス1.70%」が盛り込まれました。
国は、医療スタッフの基本給を3.2%以上引き上げることを目標にしています。看護補助者や事務職員については、5.7%の引き上げを目指しています。
理由3:2024年以降の急激な物価高への対応
実は、2024年の前回改定の後、想定を超える物価上昇がありました。
当初の見込みでは対応しきれないほどの経済環境の悪化があったため、緊急的な対応として「プラス0.44%」が追加されました。
これら3つの要因を合計すると、今回の「プラス3.09%」という数字になるのです。
私たちの負担、具体的に何が変わる?

診療報酬の改定に加えて、患者さんが直接負担する費用にも変更があります。
ここでは主な4つの変更点を、詳しくご紹介しますね。
入院中の食事代が上がります
入院中の食事代が、1食あたり40円値上がりします。
2025年4月時点での入院時食事代は1食510円です。これが2026年6月からは1食550円になります。
1日3食で120円の値上げ。1週間(7日間)入院すると840円、1ヶ月(30日間)なら3,600円の負担増となります。
値上げの理由は、食材費の高騰です。病院給食も、スーパーで買う食材と同じように値上がりしているのですね。
なお、住民税非課税世帯の方は、値上げ幅が抑えられます。
現在の区分と値上げ幅は以下のとおりです。
- 住民税非課税世帯(所得が一定以下):1食あたり20円の値上げ
- 住民税非課税世帯(所得がより低い方):1食あたり30円の値上げ
- 70歳以上で住民税非課税かつ所得が特に低い方:1食あたり30円の値上げ
ご自身がどの区分に当てはまるかは、「限度額適用認定証」や「限度額適用・標準負担額減額認定証」をお持ちの方は、そちらで確認できます。わからない場合は、入院時に病院の窓口でお尋ねくださいね。
入院中の光熱費、新たに負担することに
これまで入院費に含まれていた光熱費の一部を、患者さんが負担する仕組みが新たに導入されます。
金額は1日あたり60円です。
1週間の入院で420円、1ヶ月で1,800円となります。
「え、今まで払っていなかったの?」と思われるかもしれませんね。
実は、入院中の光熱費は、これまで病院側が負担していました。しかし、電気代・ガス代の高騰により、病院の経営を圧迫するようになったのです。
この負担は、一般病棟だけでなく、療養病棟や精神科病棟など、多くの入院病棟で発生します。
ただし、指定難病の患者さんについては、この光熱費負担が免除されます。難病で長期入院を余儀なくされている方への配慮ですね。
「先発薬がいい」という方は、負担が増えます
ジェネリック医薬品(後発医薬品)があるのに、あえて先発医薬品を希望する場合の自己負担ルールが変わります。
まず、簡単におさらいしましょう。
先発医薬品とは、製薬会社が最初に開発・販売した薬のことです。新薬とも呼ばれます。
ジェネリック医薬品とは、先発薬の特許が切れた後に、他の製薬会社が同じ有効成分で作った薬です。開発費がかからない分、価格が安くなっています。
効き目や安全性は、国が審査して「先発薬と同等」と認めたものだけが販売されています。
現在のルールでは、ジェネリックがあるのに先発薬を希望すると、価格差の4分の1を追加で自己負担することになっています。
今回の改定で、この追加負担が価格差の2分の1に引き上げられます。
具体的な例で見てみましょう。
ある薬の価格が、先発薬1,000円、ジェネリック600円だとします。価格差は400円です。
これまでのルール:追加負担 = 400円 × 1/4 = 100円
新しいルール:追加負担 = 400円 × 1/2 = 200円
追加負担が2倍になるわけです。
毎月処方される薬であれば、年間で1,200円の負担増。複数の薬で先発品を希望している場合は、さらに大きな金額になります。
ただし、以下の場合は従来どおりの負担で済みます。
- ジェネリックの供給不足で、先発薬しか手に入らない場合
- 医師が医学的な理由から先発薬が必要と判断した場合
「今飲んでいる先発薬は、ジェネリックに変えられるのかな?」と気になる方は、かかりつけの医師や薬剤師に相談してみてくださいね。
市販薬で代用できる薬も、負担増の対象に
ドラッグストアで買える市販薬と同じ成分の薬を、病院で処方してもらう場合も、負担が増える仕組みが導入されます。
これは「OTC類似薬」と呼ばれる薬が対象です。OTCとは「Over The Counter」の略で、カウンター越しに買える薬、つまり市販薬のことです。
対象となるのは77成分、約1,100品目の薬です。
たとえば、以下のような成分が含まれる可能性があります(最終決定ではありません)。
- 一部の湿布薬
- 一部のビタミン剤
- 一部の胃腸薬
- 一部の風邪薬に含まれる成分
新しいルールでは、これらの薬を処方してもらう場合、薬代の4分の1を「選定療養費」として追加負担することになります。
選定療養費とは、保険診療と自己負担を組み合わせる仕組みのひとつです。大病院に紹介状なしで受診したときの特別料金と同じ考え方ですね。
この制度は2027年3月までに開始される予定です。具体的にどの薬が対象になるか、負担額はいくらになるかは、これから詳しく決まっていきます。
「市販薬で買えるなら、そちらを使ってほしい」という国の方針が背景にあります。医療費全体を抑制する狙いですね。
いつから変わる?スケジュールを確認

今回の改定は、一度にすべてが変わるわけではありません。時期によって変わる内容が異なりますので、整理しておきましょう。
2026年4月〜薬の値段が変更
まず4月から、薬そのものの公定価格(薬価)が改定されます。
薬価とは、国が決めた薬の値段です。病院や薬局は、この価格をもとに薬代を計算しています。
今回の薬価改定は、全体として0.86%の引き下げとなります。
「あれ?値下げ?」と思われるかもしれませんね。
薬価は、市場での実際の取引価格を調査して、2年ごとに見直されます。製薬会社が卸業者に売る価格が下がっていれば、薬価も下がる仕組みです。
ただし、すべての薬が下がるわけではありません。新しく発売された薬や、供給を安定させる必要がある薬は、価格が維持されたり、上がったりすることもあります。
2026年6月〜診察代・入院費が変更
6月1日から、診察料や入院料などの点数が新しくなります。
窓口で支払う金額が変わるのは、この時期からです。
同時に、以下の変更も始まります。
- 入院時の食事代の値上げ(1食あたり40円増)
- 入院時の光熱費負担の開始(1日あたり60円)
- 先発薬を希望する場合の追加負担増(価格差の1/4から1/2へ)
6月以降に入院や通院をされる方は、お会計の金額が変わっていることに気づかれるかもしれませんね。
2027年3月まで〜市販薬類似の新ルール開始
市販薬で代用できる薬(OTC類似薬)の負担増ルールは、2027年(令和9年)3月までに開始される予定です。
まだ詳細が決まっていない部分も多く、今後の議論を経て具体的な内容が固まっていきます。
対象となる薬のリストや、負担額の計算方法などが発表されましたら、この連載でもお伝えしていきますね。
次回予告と今からできること

第2回は「外来・入院」編
次回は、外来(通院)と入院で、具体的にどのくらい負担が変わるのかを詳しく解説します。
「風邪で近所の診療所にかかったら、いくらになる?」
「1週間入院したら、どのくらい増える?」
こうした疑問にお答えできるよう、具体的な金額を試算してお伝えする予定です。
かかりつけ医に確認しておきたいこと
6月の改定まで、まだ時間があります。今からできる準備をしておきましょう。
ジェネリック医薬品について相談する
現在、先発薬を処方されている方は、ジェネリックに切り替えられるかどうか、かかりつけ医や薬剤師さんに相談してみてください。
「ジェネリックに変えても大丈夫ですか?」と聞くだけで大丈夫です。
切り替えが難しい場合でも、医学的な理由があれば追加負担を避けられます。その理由を確認しておくと、6月以降も安心ですね。
すでにジェネリックを使っている方は、今回の改定では追加負担は発生しませんので、ご安心ください。
お薬手帳を整理する
複数の病院にかかっている方は、お薬手帳を見直してみましょう。
同じような効果の薬が重複して処方されていないか、確認してもらうよい機会です。
薬の数が減れば、負担も減ります。かかりつけ薬局で「お薬の整理」を相談してみてくださいね。
マイナ保険証を活用する
入院で医療費が高額になりそうなとき、マイナ保険証があると便利です。
病院の窓口でマイナ保険証を提示すれば、面倒な手続きなしで、窓口での支払いが自己負担限度額までに抑えられます。従来必要だった「限度額適用認定証」の事前取得が不要になります。
すでにマイナ保険証をお使いの方は、入院時もそのまま活用してくださいね。
なお、住民税非課税世帯の方は、別途「限度額適用・標準負担額減額認定証」の申請が必要な場合があります。入院前に、病院の相談窓口や健康保険の窓口で確認しておくと安心です。
この記事のまとめ
- 2026年6月から、診療報酬が改定されます
- 改定率はプラス3.09%。約30年ぶりの大きな値上げです
- 値上げの理由は、物価上昇・賃上げ対応・緊急経済対策の3つ
- 入院の食事代が1食40円、光熱費が1日60円、新たに負担増
- 先発薬を希望する場合の追加負担が、価格差の1/4から1/2に
- 市販薬類似の薬も、2027年3月までに負担増の対象に
- 今からジェネリックへの切り替え相談やお薬手帳の整理をしておくと安心
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次回【第2回・外来入院編】では、通院と入院それぞれの負担変更を詳しく解説します。
出典・参考