大切な家族が旅立ったあと、残された私たちは「デジタル資産」とどう向き合えばいいのでしょうか。紙の通帳も、印鑑も、相談窓口もないネット銀行・ネット証券の口座は、相続手続きが見えづらく、不安を感じる方も多いはずです。
この連載では、第1部で「デジタル資産の見える化」、第2部で「口座を見つける方法」を解説してきました。そして今回の第3部では、「見つかった口座を、どう手続きすればいいのか」を一つひとつ、丁寧に整理していきます。
どの金融機関でも共通するルールを知れば、複雑な手続きも、きっと落ち着いて進めていけます。焦らず、順を追って、家族みんなで未来へつなぐ準備を始めましょう。
【シリーズ第1部はこちら】
まずはデジタル資産の全体像をつかみたい方、何が「資産」になるのか知りたい方は、こちらの記事からお読みください。
🔗大切なご家族への贈り物、デジタル資産の「見える化」マニュアル 〜「たった1分」の準備で、家族の未来を守る〜
【シリーズ第2部はこちら】
ネット銀行・証券の口座をどうやって見つけるか、詳しい探し方を知りたい方はこちらをご覧ください。
🔗ネット銀行・ネット証券の口座、どうやって見つける? スマホが開かなくても分かる、安心の探し方ガイド
1. まず知っておきたい基礎知識

ネット金融機関の相続が難しい理由
ネット銀行やネット証券の相続手続きには、従来の「紙と窓口」の銀行とは異なる難しさがあります。まずはその背景を理解し、備えることから始めましょう。
ネット金融機関には店舗窓口がなく、すべてのやりとりが郵送やオンラインで行われます。そのため、相続人側が手順をきちんと把握しておかないと、何度も書類をやりとりすることになりがちです。
また、セキュリティの観点から、本人確認書類や印鑑証明などの提出が厳格に求められます。顔が見えない分、書類の整合性や正確性が何より重視されるのです。
銀行と証券の複合口座に注意

楽天銀行と楽天証券、住信SBIネット銀行とSBI証券などは、画面上では一体のように見えても、実際は別法人です。どちらにも別々の手続きが必要であることを覚えておきましょう。
口座凍結のタイミングと影響
口座は、死亡の連絡をした時点で凍結されます。凍結後は入出金が一切できなくなるため、公共料金や家賃などの自動引き落としが止まってしまうリスクがあります。できる限り凍結前に、引き落とし口座の変更や代替手段を検討しておくと安心です。
本章では、「すでに相続が発生しているが、何から手を付ければよいか分からない方」を主な想定読者としています。ネット銀行・ネット証券を日常的に利用していた場合、口座数が複数に分かれていることが多く、相続人が全体像を把握しきれないまま手続きを始めてしまうケースが少なくありません。
相続の難易度が一段上がる目安としては、
①銀行と証券を併用している、
②連携サービスを利用している、
③複数社にまたがって口座が存在する、
のいずれかに当てはまる場合です。これらに該当する場合は、「書類が多い」「連絡先が分散する」「手続きが同時並行になる」ことを前提に進める必要があります。
店舗窓口がないことで起きやすいのが、書類不備による差し戻しです。記入漏れや印影の不鮮明さが原因で、郵送後に数週間手続きが止まってしまう例も珍しくありません。対面確認ができない分、最初の提出精度が重要になります。
なお、口座凍結前後で注意すべき点があります。残高を把握したいからといって、故人のIDやパスワードを使ってログインする行為は避けてください。たとえ家族であっても、不正アクセスと判断されるおそれがあります。資産内容の確認は、金融機関に正式に連絡し、残高証明書を取得する方法が安全です。
2. 相続手続きの「共通ルール」を理解しましょう

基本書類セットを揃える
ネット銀行・ネット証券の相続では、どの金融機関であっても必要になる書類があります。これらの書類は、「共通書類セット」として覚えておくとよいでしょう。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書(発行後3〜6ヶ月以内)
- 遺産分割協議書(または金融機関所定の相続届)
- 金融機関所定の依頼書
どの書類にも共通するのは「正確さ」と「期限内であること」。特に印鑑証明書や住民票には有効期限が設けられているため、取得のタイミングにも注意が必要です。
法定相続情報一覧図を活用する
手続きの時間と手間を大きく減らせるのが、「法定相続情報一覧図」という制度です。これは法務局が発行してくれるもので、戸籍謄本の束の内容を1枚のA4用紙にまとめたものです。
この一覧図を使えば、戸籍の原本を毎回提出する必要がなくなり、複数の金融機関に同時並行で手続きが進められるようになります。主要なネット銀行・ネット証券は、この一覧図に対応しています。
原本還付の仕組みを知っておく
どうしても原本を提出しなければならない書類がある場合でも、「原本還付」という方法を使えば、書類を返してもらうことができます。返却を希望する場合は、コピーとともに「原本還付を希望する」旨の記載を忘れずに添えておきましょう。
この仕組みをうまく活用すれば、1つの書類を複数の手続きで使い回すことも可能になります。
3. ネット銀行特有の「連携サービス」に注意
楽天銀行と楽天証券「マネーブリッジ」
楽天銀行と楽天証券を連携して使っていた方は、「マネーブリッジ」によって両口座がつながっている状態に注意が必要です。一体化して見えるこの仕組みですが、実際には別会社のため、相続手続きもそれぞれで行う必要があります。
死亡の連絡をどちらか一方に入れると、連動してもう一方の口座も凍結される場合があります。スムーズに資産を把握するためにも、両方に連絡し、残高証明書を取得しておくと安心です。
住信SBIネット銀行とSBI証券「ハイブリッド預金」
このサービスもまた、一見すると証券口座のように見えますが、実態は銀行預金です。ハイブリッド預金の残高は、相続の際に銀行側に連絡しないと取り扱ってもらえません。
相続人が証券会社にだけ連絡して手続きを進めてしまうと、預金部分が未処理のまま残ってしまうおそれがあるのです。必ず両方の機関に手続きを進めるようにしましょう。
住所確認と戸籍の附票
ネット銀行は、郵送を主とする手続きの中で、正しい送付先を確認する必要があるため、住所確認がとても厳しくなっています。住民票では対応できないことがあり、戸籍の附票(本籍からの住所の履歴)が求められるケースも少なくありません。
あらかじめ市区町村役場で戸籍の附票も取得しておくと、スムーズに進められることがあります。
連携サービスは、あくまで資金移動や残高表示を便利にするための仕組みであり、法的に口座が一体化しているわけではありません。相続手続きでは、この「見た目の一体感」は一切考慮されず、銀行と証券は完全に別口座として扱われます。
実務上の判断基準としては、「資金の実体がどこにあるか」を起点に考えると整理しやすくなります。預金として存在している残高は銀行、株式や投資信託は証券会社、という原則に立ち、資産が存在する側の窓口に必ず個別に連絡する必要があります。
連携口座の片方にだけ連絡した結果、もう一方が凍結され、残高確認や証明書取得に時間がかかってしまう例もあります。相続開始後は、連携の有無にかかわらず、銀行・証券の双方に連絡することを前提に進めるのが安全です。
4. ネット証券の相続|株式・投資信託の引き継ぎ方
口座のまま売却はできません
株式や投資信託など、ネット証券に預けられている資産を相続する場合、「そのまま売却すればいい」と思ってしまいがちです。しかし、これは絶対に避けなければなりません。
被相続人の口座は、法律上、死亡とともにその人の所有権が消滅しているため、売却などの取引は一切できません。資産を現金化するには、まず相続人の名義に正式に移管する必要があります。
相続人名義の口座が必要です
証券会社は、相続手続きを行う相手(=資産の受け皿)として、相続人の名義の証券口座を必要とします。特に注意したいのは、「同じ証券会社内」での口座開設が原則であること。
たとえば、楽天証券で管理されていた株式は、原則として楽天証券内の相続人の口座にしか移せません。他社の口座へ移管したい場合は、いったん名義変更後に手続きを行う必要があります。
口座を開設する際には、「特定口座(源泉徴収あり)」を選ぶことで、後の税務申告が不要になるケースもあります。
単元未満株(端株)や投信の扱いにも注意
移管対象の資産には、1株単位で保有されている単元未満株や、小口の投資信託が含まれている場合もあります。これらも原則として移管対象ですが、売却時に手数料が割高になったり、扱いが異なる場合があります。
証券会社から届く資産一覧で、こうした細かい資産の確認も行っておきましょう。
5. NISA・iDeCoという特殊な制度

NISAは死亡時に非課税メリットが終了
NISA口座で保有していた株式や投資信託は、被相続人が亡くなった時点で、非課税メリットが自動的に終了します。その後は「課税口座」へと移され、相続人に引き継がれることになります。
このとき、取得価額は「死亡時点の時価」となり、将来の売却時の課税に影響します。また、配当金にも通常の課税が行われるため、想定より税金が増える場合もあります。
iDeCoは5年以内に請求しないと失効の恐れも
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、年金制度の一部であるため、他の金融資産とは異なるルールが適用されます。
死亡後、一定の順位に基づいて「死亡一時金」として請求できるのですが、この請求には時効があり、原則として5年以内に行わなければなりません。
また、3年以内に請求すれば「みなし相続財産」として扱われ、相続税の対象となる可能性がある一方、3年を超えると一時所得としての課税になるなど、税務上の違いも生じます。
手続きの窓口は運営管理機関(加入していた金融機関)になります。早めに連絡し、必要書類や請求方法を確認しておくと安心です。
NISAやiDeCoは節税を目的とした制度であり、相続を前提に設計されたものではありません。そのため、通常の証券口座と同じ感覚で扱うと、判断を誤りやすい点に注意が必要です。
NISAについては、被相続人が亡くなった時点で非課税の扱いが終了することが判断の分岐点になります。相続人がそのまま非課税で保有できる制度ではないため、「死亡時点の時価」を基準に課税関係が切り替わることを意識しておく必要があります。
iDeCoは、請求期限が実務上の最大の注意点です。死亡後5年以内に請求しなければ、死亡一時金を受け取る権利そのものが失われるおそれがあります。また、3年以内か3年超かによって税務上の扱いが変わるため、早い段階で金融機関に連絡し、期限と課税区分を確認することが重要です。
6. 書類提出で失敗しないためのコツ
郵送前にできる最終チェック
書類の不備があると、手続きはすぐに止まってしまいます。特に印鑑のかすれや記載ミスは、再提出の原因になりやすいポイントです。
郵送前に、以下のような確認をおすすめします。
- 実印がしっかり押されているか(かすれていないか)
- 捨印を所定の場所に押したか
- 記入漏れや漢字の誤字がないか
- 印鑑証明書や戸籍など、添付書類がすべて揃っているか
- スマホなどで全体を撮影して保存したか
チャットサポートや電話で事前確認を
不明点がある場合は、金融機関のサポートを積極的に利用しましょう。ネット銀行・証券は、電話のほか、チャットボットや有人チャットサポートを用意していることもあります。
提出書類のサンプルや記入例を見ながら質問できる環境を活用することで、書類不備による手戻りを防ぐことができます。
7. 絶対に避けたい「つまずきポイント」ベスト4

パスワード探しが「不正アクセス」扱いに?
ご家族の思いやりから、故人のメールやネットバンキングにアクセスしようとすることもあるかもしれません。しかし、こうした行為は、たとえ善意であっても「不正アクセス」と見なされるおそれがあります。
実際、金融機関のセキュリティシステムが異常検知を行い、アカウントがロックされてしまうと、手続き全体が止まってしまうこともあります。
どうしても資産の内容を知りたい場合は、残高証明書の発行を申請するのが安全な方法です。
故人のメールアドレス宛に通知が届く
ネット銀行・証券では、手続き完了の通知や追加書類の依頼が、故人の登録メールアドレス宛に届く仕組みになっていることが少なくありません。
そのため、メールが確認できない状態では、通知を見落としてしまうリスクがあります。申請時に「書面での通知を希望」または「相続人のメールアドレスを登録する」ことで、連絡漏れを防げます。
少額資産の放置がコストになることも
「数百円しか残っていないから、放置してもいいかな」と思ってしまうケースもありますが、注意が必要です。ネット銀行では、一定期間未利用の口座に対して「口座維持手数料」がかかることがあります。
残高が目減りしたり、手数料によってマイナスになってしまう前に、早めに払い戻すか、正式に相続放棄の手続きをとることをおすすめします。
移管・払戻が完了した後も大切な確認を
資産が移されたあと、「これで終わった」と安心してしまうのは早計です。相続税の申告が必要な方は、証券会社から送られてくる「譲渡計算書」や「完了通知書」をきちんと保管しておく必要があります。
税務処理や後日の照会に備えて、電子データだけでなく紙で出力して保管しておくと安心です。
相続開始後は、故人名義の口座やオンラインサービスは、原則として「本人以外が操作できない状態」になります。家族であっても、ログインや設定変更などの操作は契約上認められておらず、善意で行った行為でも問題になる点を前提として理解しておく必要があります。
判断の分かれ目は、「操作」か「正式な申請」かです。IDやパスワードを使ったログイン、メールの閲覧、口座画面の確認などは避けるべき行為に当たります。一方で、金融機関に連絡して残高証明書や取引内容の開示を申請することは、正規の手続きとして認められています。
実務上よくある失敗として、通知確認のために故人のメールにログインし、異常検知によって口座がロックされてしまうケースがあります。また、少額だからと資産を放置した結果、口座維持手数料が差し引かれ、残高が消えてしまう例もあります。通知未確認により、追加書類の期限を過ぎてしまい、手続きを最初からやり直すことになることもあります。
なお、相続放棄を検討している場合でも、口座や資産が自動的に解約・消滅するわけではありません。後日の税務対応や照会に備えて、手続き完了後に受け取る通知書や計算書類は、電子データだけでなく紙でも保管しておくことが重要です。
8. 安心して進めるための5ステップガイド

ここまで紹介してきた内容を、実際の行動に落とし込めるように、5つのステップでまとめました。
ステップ1:初動|情報整理と凍結前の準備
第2部で作成した「口座候補メモ」を見直し、故人の銀行・証券口座をリストアップしておきましょう。
加えて、公共料金や家賃、クレジットカードなどの自動引き落とし先を確認し、必要があれば一時的に変更や停止の対応を検討します。
相続人間で、誰が手続きを担当するかも事前に話し合っておくとスムーズです。
ステップ2:共通書類の準備
- 法定相続情報一覧図を作成(法務局)
- 印鑑証明書、戸籍謄本などを取得
- 遺産分割協議書の作成(必要な場合)
どの金融機関でも求められる基本的な書類を揃えておくことで、後の作業が格段に楽になります。
ステップ3:金融機関への連絡と書類請求
各社のWebフォームや電話を使って、相続の申し出を行います。証券会社の場合は、相続人名義の証券口座を同時に開設する必要があります。
この時点で「書類キット」が送られてくるので、内容を確認して、不明点があればすぐに問い合わせましょう。
ステップ4:書類作成と郵送
- 捺印のミスに注意して記入
- 原本還付を希望する場合は明記
- 郵送前にスマホで全ページを撮影
万が一、再提出が必要になったときにも、手元に記録が残っていれば安心です。
ステップ5:資産の受け取りと税務対応
振込や移管の完了を確認したら、それぞれの完了通知書を保管します。
NISAやiDeCo、上場株式の譲渡など、税務に関係する資料もあわせて整理しておくと、後の申告がスムーズになります。
9. 実際にどこに連絡すればいいの?
ネット銀行・証券の連絡先(簡易版)
以下のような金融機関は、各社の公式サイトに「相続手続きのご案内」ページがあります。詳しい連絡先や書類請求方法は、そちらを確認してください。
連絡時に伝えるべきこと
連絡の際は、次のように簡潔に伝えましょう。
「家族が亡くなりまして、相続手続きの相談をしたいのですが」
口座番号が不明でも、故人の氏名と生年月日で調べてもらえる場合があります。無理にパスワードやIDを探す必要はありません。
まとめ:一歩ずつ、ご家族のペースで

ネット銀行やネット証券の相続手続きは、デジタルな見た目に反して、意外とアナログな作業の連続です。
でも、基本のルールさえ押さえておけば、どの金融機関でも共通する道筋が見えてきます。
戸籍を1枚にまとめる「法定相続情報一覧図」、そして証券口座の「特定口座」。この2つを味方につけて、焦らず、確実に、未来へのバトンを渡していきましょう。
シリーズ記事リンク
【第1部】
大切なご家族への贈り物、デジタル資産の「見える化」マニュアル 〜「たった1分」の準備で、家族の未来を守る〜
【第2部】
ネット銀行・ネット証券の口座、どうやって見つける? スマホが開かなくても分かる、安心の探し方ガイド
【note まとめ】
デジタル資産相続の羅針盤|ネット口座の見える化・探し方・手続きまで、家族を守る完全ガイド
▼ Youtubeシリーズ第1部・第2部・第3部はこちら
・第1部:家族へ贈る「スマホのバトン」。ネット口座も迷わせない一番優しい引継ぎ術
・第2部:第2部故人のネット口座を見つける「探索の地図」
・第3部:デジタル資産相続の羅針盤
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